●漆喰材の復元を目指す
  −葛g田鉄五郎商店代表取締役 吉田 鐵太郎

 人類の知恵から生まれた漆喰は、学理的見地から適合した着想であることに敬服します。消石灰の気硬化進行による結合のスサを練り合わせ、温度差による体積の増減や気象による外力を抑え、更に糊材の接着性等に理にかなった工法であります。
 植物、又は動物繊維を使用した構築物のイラン西部スサ遺跡から漆喰用スサなる名称があるとか? 又、中国万里の長城の煉瓦目地には澱粉系の糊材使用により強度のある城壁が現存しています。
 日本は海に囲まれ、海藻の糊材が取り入られ、これも民族の知恵で日本列島の気象条件にあった構造物として発展したと考えられます。千数百年前の明日香村高松塚漆喰壁に海藻の胞子らしきものが検出されたということは中国とは別個の糊材として海藻糊が使われたと思います。
 消石灰に海藻糊材を加えることにより、海藻の複雑な元素が化合して、漆喰壁の持つ特性である呼吸作用・空気浄化作用の働きが生かされます。海藻の主体はDガラクトーズの多糖類ですが、数多くの元素化合物が分析され、これらが石灰と化合して石灰の気硬化進行に役立っているとの学説があります。最近になって、超微量元素の分析でナノ・ピコ・フェトム等の数値がいわれましたが、近い将来の更なる科学的解明が待たれます。
 世界海藻学会及び分子生物学界の面からも人間の居住空間についての究明が必要です。 漆喰壁の特性としては、耐火性・耐水性共に優れた素材で中国で四千年前の遺跡が漆喰によって築かれ、悪条件の地下で保全されております。中国の安西市にも漆喰仕上げによる遺跡が発見されたとか。日本では熊本の通潤橋を組み立て、ある岩石の目地等も耐水力及び強度が発揮されております。又、石灰特有の浄化作用も天然糊材の海藻によって充分役割を果たしているものと思います。
 日本の気象条件に適合した天然素材による住宅技能を日本住宅文化の景観と共に更なる見直しが望まれます。
 私共では漆喰用海藻糊材の銀杏草・角又・布のり等を取り扱って、百数年経過し、現在に至っております。幸いにもこの多様な住宅需要の中で、天然素材による流通が残っているということは一重に業界の御力添えよるものと感謝して日々を送っております。漆喰用材の石灰石・海藻類は国内にて充分まかなえる素材であり、海藻は毎年、海に自然着生し、生産者団体である漁連・漁業協同組合等で漆喰糊材に最適な海藻類の採集を続けております。
 住宅産業の分野におきましても、地球環境を無視できません。地球に優しい素材の分野として、漆喰材の復元を望む次第です。
 どうぞ、今後も日本で育った建築文化の伝承に努力する所存でございますので、業界の御指導等、戴けましたら幸と存じます。

建材フォーラム279号(11月号)(工文社,1999)所収,7頁以下