●日本漆喰工業会設立に思う
  −渇ヤ咲か団代表 岡田 明廣

 地球環境と人類のあり方について、大きな問題点が議論される時代になりました。人間の生産活動によって、排出されるものが原因である事は明白です。人々が我先に金銭、物質、便利を求めたエゴイズムの反動と言えると思います。
 物作りの原点は、利益のみにあらず、利便性ばかりを追求せず、作られたものが地球環境及び動植物の生存に対して、どんな不可を生み出すか良く考えるべきであります。地球環境の自律作用を逸脱した物作りは改めなければならない。
 今回の日本漆喰工業会の設立は、その意味で昔からの伝統工法を見直し、地球環境にやさしい建築物を広めるためのものとエールを送りたい。
 漆喰の成分は、消石灰、角又、麻のすさを水にて練ったもので、自然素材である。難点を挙げれば、石灰石を焼成する時、排出するCO2です。しかしながら、消石灰に水を混入した壁として塗り上げると空気中のCO2や硫酸分を取り込み、硬化します。自分で出したものを自分で抱き込むところにそのすごさがあります。
 漆喰壁といえば、手間が掛かって、高いものになると敬遠され、一時期は工事を見る事はありませんでしたが、ここに来て復活の兆しが出始めた事は喜ばしい限りです。
 日本漆喰工業会への期待とお願いは、統一した規格、すなわち漆喰の施工マニュアルによる圧縮、引張、曲、凍結融解等のデータを明記し、メジャーな材料工法として、認許される様な良質なるものを製作することです。漆喰材料の欠点を補う為に、安易に石油化学製品の樹脂を混入するのはやめてもらいたい。
 左官職人としても、今迄の安かろう、悪かろうのやっつけ仕事を反省し、長期に渡り美しい壁として残る工法を勉強し、技術を練磨すべきです。石灰、土、砂、すさ、糊の素材の善し悪し、混合比、その日の温度、湿度などの状況判断、施工法としては下地の善し悪し、チリ付、すさ割、ハッカケ、等々、知るべきことは沢山あります。先人の教えに、百姓は毎年一年、と云ったそうですが、左官は毎日一年生だと感じております。
 利益優先で粗悪な建築が、近年中にゴミと化す事は明白です。一時は金も暇も掛かり、建築主も大変だと思いますが、強くて美しい壁が長持ちすれば、ランニングコスト計算も成立するはずです。
 次世代の子孫動植物に美しい地球を残す為に、お互い精神あるのみ。

建材フォーラム279号(11月号)(工文社,1999)所収,7頁以下